
学生の頃、「忙しいという字は、心を亡くすと書くんだよ。」と、人から言われたことがありました。
その話を聞いた時に、漢字ってよくできているなぁと思いました。
でも、じゃぁどうして忙しいと心を亡くすんだろう?とは考えませんでした。
社会人になって仕事をし始めると、だんだんとその意味がおぼろげながら分かってきました。
やらなきゃいけないことに忙殺されている状態が続くと、頭の中では常に自分と自分の中の誰かとの会話、独り言とは言えないぐらいの問答が延々と続く状態になってしまいます。
これが慢性化すると「心ここに在らず」の状態になってしまいます。
「次のプレゼンまでに、あれやらなきゃ。
>え、ほんとにそれで大丈夫?
いや、その前にあれを確認しなきゃ。
>でも、本当にそれでいいの?
いや、だったらその前にあの人にそれでいいか確認しなきゃ。
>それって、いつまでに?
えっと、でもそれっていつまでにやればいいんだったけ?
>それって何日あったらできるの?
あれ?
締め切りまであと何日あるんだっけ??」
こんな状態を、「心をなくすほど忙しい」ってことなんだなと理解しました。
デザイナーとしての仕事
私は長年デザイナーとして仕事をしてきましたが、デザインという仕事は常に予算と時間との戦いです。
ただ、下っ端の頃はお金の勘定はしなくて済んでいたので、目下気にしなくてはいけないのは締め切りです。
どんなに良い仕事をしたとしても、締め切りを守れなかったらクライアントに迷惑をかけ、そこで信用は台無しです。

おまけに大抵の仕事はチームで動くので、誰がいつまでに何をやるのか、それをどのタイミングで確認してブラッシュアップをかけるのか、そしてフィニュッシュはいつまでに完成させるのか。
いつ、だれが、どこで、何を、どうやって、まさに5W1Hを確認しながらの作業となります。
しかしそれも下っ端の頃は上司のディレクションに合わせてこなしていけば良いのですが、それでもその締め切りを守ることに必死でした。
けれど少し立場が変わって、チームをまとめる役になったときには、その5W1Hを自分が常に確認しながら、進行役をやらなくてはなりません。
突然のプロジェクトリーダー指名
私が20代の頃に、突然このまとめ役を仰せつかりました。
上司が急遽他の仕事にかかり切りになってしまい、私がまとめ役をこなさなくてはいけなくなったのです。
それまでは上司にスケジュールと段取りを確認し、自分の役割はいつまでに何をアプトプットすれば良いか指示され、それをこなせば良かったのです。
ところがプロジェクトの段取りを一気にとりまとめることになると、急に頭の中が濃い霧に包まれたようになりました。
その時に頭の中には「五里霧中」、「暗中模索」という四字熟語がぐるぐる回っていました。
何をいつまでにやらなくてはいけないのか、そしてその作業をいつ、誰にやってもらえばいいのかを整理しないと、頭の中がパンクしそうになりました。

そこでまずは壁に大きな紙を貼り、締め切りから逆算して作業のチェックポイントとタスクを書き出し、それを誰がいつまでにやるのかを書き出してみました。
そしてアルバイトの学生の子にも作業スケジュールを伝えて出勤日と時間を決めてもらい、作業を細かく切り分けて、それぞれ役割分担して作業に取り掛かりました。
書き出すことでの救いがある

この時壁に書き出した大きな表が、ガントチャートでした。
その頃はガントチャートという名前は知りませんでしたが、必要に迫られ表を書き出したことで、随分救われました。
なぜなら、壁にこの作業進行表を張り出したおかげで、チームのメンバーが自発的に仕事を協力しあってすすめてくれたのです。
どの作業がどこまで進んでいるのかが一目で分かるので、各々が自分の時間を調整して、隙間時間を上手に埋めながら進めてくれていました。
この時初めて状況を共有する有り難みを実感しました。
このプロジェクトのチームは、私の他には子育中で時短ワークの人、学生のアルバイト、フレックスタイム制で夕方から夜中にかけて働くスタッフなど、スキルも働き方もバラバラでした。
おまけに今のようにスマホやグループウェア、LINEといった便利なツールもなかったので、情報の拠り所が唯一壁に張り出したガントチャートでした。

このガントチャートに都度進捗状況を書き出しながら仕事をしていると、締め切りに追われ徹夜続きの仕事でも、まるで学園祭前夜のような楽しさがありました。
なぜかというと、仕事の進み具合と完成度が目に見えているからです。
そしてすれ違いで仕事をする他のスタッフが仕事の合間にこのガントチャートにメッセージやかわいい落書きを添えてくれたりしていたので、目が回るほどの忙しさの中に、楽しさを加えてくれていました。
皆のおかげで、このプロジェクトは無事に完成させることができました。
そしてこの時にわかプロジェクトリーダーとなった私は、仕事はまずゴールを定め逆算し、そこから段取りを計画する大切さを身をもって体験しました。
オフィスに寝袋持参で泊まり込みながらの仕事でしたが、とても良い経験をさせてもらったと思います。
今ならこんな働き方をしたら、ブラック企業の烙印を押されてしまうので難しいかもしれません。
でも、20代の体力のある時代にとことん仕事ができたことは、今の自分には良い財産になっていると思います。

(株)ロダン21 横田久美子
2006年より、(株)ロダン21に参加。
2017年、株式会社ロダン21 代表取締役社長就任。
異業種交流グループ事務局運営、WEB製作&管理、デザイン製作、モノ作りのコーディネート、経理、財務等、あらゆる業務に関わる。異業種連携のあり方、CSR活動としての「モノ作り教育支援事業」について講演活動も行う。